試験的に書いてみました。
そのうち消す予定。
いわゆる追放系ですね。
見栄えとか確認しています。
第一話 やっぱり追放ですか?
大規模なダンジョンを踏破した私たちのパーティーは、大都市ブルートで一番の有力パーティーとなった。
これからはこのパーティーにもどんどん依頼が舞い込んでくることだろう。
リーダーである『ガイ』もここを拠点とするようで、パーティーメンバー全員で住める豪邸を購入したようだ。
でも、本当にこのままでいいのだろうか?
私の疑問は日増しに大きくなっていった。
勇者『ガイ』
とある出来事により、たまたま聖剣に選ばれてしまった青年剣士。
そのせいもあり、この国の王より【勇者】の称号を賜ったという経歴を持つ。
見た目はイケメンだが中身はスケベの困った男で、美女や美少女が大好きな男でもある。
「エイジ。すまないがパーティーを抜けてくれないか」
一緒にやってきた酒場の個室で、ガイはそう言った。
「……本気かい?」
「あぁ。すまないが、これ以上はもう」
すまないといいつつもガイは無表情で私にそう告げた。
「……そうか。新しいメンバーについて話は聞いている」
「だろうな。だから、わかるだろ? お前とは五年やってきた。でも、仲間も増えてきたのにお前のできることは変わらない。同じことができるなら僕はグリムを加入させたい」
女魔術師『グリム』
絶世の美女と名高く、攻守に長けその上補助魔術も得意という非の打ちどころのない人物。さらには私と同じくサポーターとしての歴も長く良い倉庫スキルを持っているとか。
「わかった。じゃああの日の約束はどうする?」
「出会ったときに言ったあれか。すまない『なかったこと』にしてくれ」
ガイは私との約束の破棄を望んだ。
「わかった。アマリアたちにはこのことは?」
「アマリアには相談した。ほかの子にはまだだが、エイジが出ていき次第伝える」
「そうか。うん。わかった。今までありがとう……。ガイ」
「ふん。さっさと行け。それと今持っているやつ以外は荷物置いて行けよ」
「心配ない。すべて倉庫にある」
「ふん」
こうして私はガイによりパーティーから追放された。
五年も共に過ごしてきただけに、こういう別れになると少し胸に来るものがある。
正直納得できる話ではないが、もやもやを感じていたのも確かだ。
これでいいのかもしれない。
「ガイは、約束をなかったことにした。これからどうなることやら。少し心配だな。アマリアたちがガイと一緒に幸せに暮らせるといいのだが……」
残った者たちのことが気がかりだが、ガイはハーレムパーティーを目指している。
悪いようにはしないだろう。
美しい女戦士『アマリア』
血の気の多い性格で戦いを好む。ガイとはなんだかんだ馬が合うようだ。
当然、ガイとはそういうことをする関係でもある。
可憐な召喚術士の『柚葉』と可愛らしい魔術師の『瑞葉』は姉妹だ。
使える呪文は幅広く、とても役に立つ子たちで私にもよく懐いてきてくれた。
まぁ、そんなあの子たちは美少女や美女に目がないガイのお気に入りだ。
まだそういうことはしていないようだが、今後はどうなるか。
私というストッパーがいないので案外早く手を出すかもしれない。
見た目も可憐なエルフの弓術士『シリス』は凄腕のスナイパーだ。
魔物を倒すのもそうだが野生動物を狩る際にもその際のは如何なく発揮された。
あのパーティーで肉に困らないのはシリスのおかげともいえる。
ちなみに、野草やキノコを探すことも得意なようだ。
そんなシリスもガイのお気に入りだが、シリスはどうなんだろうか。
エルフについては詳しくないので想像することすらできないが。
淑やかで優しく慈悲深い大神官の娘である『フィリス』は優秀なる神聖魔術と精霊魔術の使い手だ。
とても優秀な彼女はその性格と可憐な見た目から聖女と言われている。
私から見ても深窓の令嬢といった雰囲気を感じる。
そんなフィリスももちろんガイのお気に入りだ。
ただ願わくば、大神官に許可を得ずに手を出さないことを望む。
「しかし、ものの見事に美女や美少女ばかり集まったものだな。全員ガイが選んだとはいえ、恐ろしい」
勇者として認められているガイは、その名声を利用してハーレムパーティーを作ろうとしている。
まぁ一夫多妻、一妻多夫が法律的に可能なのでそのあたりは問題ないのだが、少々性急すぎる気がしている。
しばらくは通りを歩きながらガイたちのことを考えていたが、まだこの後の予定が決まっていなかった。
路銀のことも考えなければいけないし、はてさて……。
「とりあえず少し寄り道をしつつ、そのうち故郷に帰って土地でも開拓しますか」
やることが思いつかないのだから仕方ない。
遠いあの地へと戻るとしようか。
※
その頃ガイは、にやける顔を抑えつつパーティメンバーたちのもとへと向かっていた。
その心にあるのは、如何にしてあの美女たちを自分のものにするかということだけ。
なに、時間はたっぷりある。
どうにでもなるさ。
そんなことを考えていると、ガイが購入した豪邸へとたどり着く。
「おかえりなさいませ、ガイ様」
門番はガイに敬礼する。
「あぁ。変わったことは?」
特に何もないことはわかっている。
これは一種の通過儀礼のようなものだ。
「はい。加入希望のグリム様がアマリア様と中でお待ちです。それと……」
門番はガイにそう伝えると、懐から数枚の紙を取り出した。
「こちらはガイ様にです。柚葉様、瑞葉様、シリス様、フィリス様から手紙を預かっています」
門番はそう言うと、ガイに手紙を手渡す。
どういうことだ?
受け取った手紙をガイが読むと、ガイは困惑の表情を浮かべた。
『ガイ様へ。私と妹の瑞葉はお父様からの呼び出しを受けているため、一年ほど国に戻ります。ご迷惑にならないようギルドのほうで脱退手続きをしてありますので、併せてご理解ください。よろしくお願いいたします。柚葉』
「ぐっ、本気か!? もう一枚は!」
『ガイ君へ。ごめん、ちょっとエルフの森へ戻っています。あ、近くの森じゃなくて本拠地のほうね。なんでも大事なお話があるらしくってどうしてもすぐ立たなきゃいけなかったんだ。というわけで、脱退手続きしてあるからよろしくね。シリス』
「は!?」
意味が分からなかった。
なんで急に?
それなら先に相談しろよ。
ガイはそう思った。
「まさかフィリスまで!?」
嫌な予感がしたガイは最後の手紙を開いた。
『ガイ様。大神官である父が病床に伏せってしまったとの報告があり、急いで立つことにしました。直接お話しできず申し訳ございません。ギルドのほうには神殿を通して脱退手続きをしてあります。ご迷惑をおかけします。フィリス』
「はー!?!?!?!?」
まてまてまてまて、これはどういうことだ!?
みんな揃いも揃って今日この日に立つとかどうなっているんだ!
くっそう。何かがおかしい。
「くそっ! 何がどうなって……」
「ガイ様、とりあえず中にお入りください。考えるのはそれからにしましょう」
「うるさい! そんなことはわかってるんだよ! ええい、くそっ!」
ガイは門番に怒鳴り散らすと、屋敷の中へと入っていったのだった。
※
「あら、エイジじゃないか。こんな時間にどうしたんだい? まさか追い出されたわけじゃないだろうね」
夕方の街をとぼとぼと歩いていると、店じまいをしていた八百屋の奥さんのマリアさんに声をかけられた。
「こんばんは、マリアさん。実はそのまさかなんです。仕方がないから故郷に帰ろうかと思いまして」
「あらま、それは本当なのかい? まぁガイさんのことはよくわからないから何にも言えないけど、そうかい。エイジがいなくなってしまうのは寂しいねぇ。旦那もきっと寂しがるよ」
「ありがとうございます。マリアさん。バルカさんにもよろしくお伝えください」
八百屋の夫婦マリアさんとバルカさんはいつも私に良くしてくれるとてもいい人たちだ。
おいしい野菜の見分け方や産地を教えてくれたり、料理の仕方を教えてくれたり実際の料理ごちそうしてくれたりした。
思えばお世話になったものだ。
「では私は行きますね。またこれたら来ますから、どうぞご健康で」
私はマリアさんたちにそう言うと、祈りを込めてそう伝えた。
「あぁ。気をつけておいきよ!」
手を振るマリアさんに背を向け、私は歩き出す。
すると、私の後ろのほうが何やら賑やかになった。
「マリア! ワシの腰が治ったぞ!」
「あれま、ほんとうかい? 医者も無理だって言ってたでしょうに」
「あぁ本当じゃよ。ありがたやありがたや。神様のお慈悲じゃ」
どうやら、バルカさんの持病がよくなったようだ。
これでバルカさんもマリアさんと仲良く八百屋を続けていけるだろう。
私はそれをうれしく思いながら街の外へ向かって歩き出した。
「お? エイジじゃないか。こんな時間に外に出ていいのか? もう数刻したら門は閉まるぜ?」
ブルートの南門は比較夜遅くまで空いていることでも有名だが、その分屈強な衛兵によって守られていることでも有名となっている。
今声をかけてきたのは、ブルート南門の衛兵であるガードナーという衛兵だ。
「いやなに、とうとうパーティーを追放されてしまってね。どうせだからあちこち行きながら故郷に帰ろうかと思って」
思えばガードナーとも付き合いは長い。
見た目が怖いわりに気さくな彼との飲みは実に楽しかった。
彼は話が面白いのだ。
「はぁ? ガイのくそ野郎がお前をか? いやいやいや、冗談だろ?」
ガードナーは信じられないとばかりに驚いた表情をする。
「これが本当なんだ。まぁまた来れたらここに来るさ」
いつになるかはわからないが、またブルートに来ることができたらガードナーと共に酒を飲もうと思う。
「はぁ……。信じられねぇ。だってお前、あんなに強いのに」
「まぁ、ガイがいないときはね。でもガイがいるときは契約があるからできないのさ」
私はガードナーにそう説明した。
「あれか? 俺といるときは俺のサポートに徹すること、それ以外の力は一切要らないってやつか?」
「それだ」
ガードナーがこの話を知っている理由。
それは、酒の席で酔っ払ったガイが私に再度宣言したからだ。
ガードナーのいる前で。
【契約】
それは単純かつ明快。
ただ一言願えばいい。
そうすることでそれは叶うだろう。
かつて誰かに願い事をした人が、石板にそう書き残したことで知られる一文である。
契約魔術というものはあるが、重要な契約でもない限り使われることはない。
一般的に人と人とが約束する場合は大抵口約束なので反故にしても何ら問題はない。
私を除いてだが。
つまり、ガイがそう望んだから私は能力に制限がかかった。
でもそれは、今日解除された。
なので私も元通りというわけだ。
「それでなんで制約されるのかわからないが、まぁそういうものなんだろ? まぁいい。ともかくだ、今から出るのはお勧めしない。できれば明日まで待ってくれないか?」
私にも事情があるので、ガードナーの細かいことはこだわらない性質がありがたかった。
「う~ん。まぁ野営はできるからね。ガイのためにも今のうちに出ておこうかと」
「ぐぬぅ……。そうか。わかった。無理を言っても仕方ないもんな。本当はあまり渡すべきじゃないんだが、通行証だ。もってけ。これがあれば閉門していても入れるからよ」
ガードナーはそう言って通行証を手渡しながら渋々といった感じで納得してくれた。
まったくいい友人持ったものだ。
「すまない。ありがとう」
「いいってことよ。それに、領主様にも言われてるからな」
「あぁ。そうか。君たちと領主様に幸あらんことを」
通行証と気遣いのお礼に私はそう祈り、言葉を発した。
「またな。エイジ」
「また。ガードナー」
ガードナーに別れの挨拶をした私は、そのまま南門を出て街道へと向かった。
しばらく街道を歩き、日が完全に落ちたころ、街道から少し外れた広場で野営の準備をすることにした。
幸いにもこの時期は乾燥した焚き木が多く、燃料には困らない。
集めた焚き木に意識を向けて指を軽く鳴らす。
すると焚き木は自然と燃え上がり始め、ついには大きな炎へと変わっていった。
「さてさて、今日は食料もないし、のんびりしたら休みますか。幸いにも魔物の気配は感じられないしね」
大きな街の周囲は基本的に魔物が寄り付くことはない。
定期的に衛兵が巡回し、うろつく魔物を駆除しているので近づいてもいいことはないと学習しているのだ。
「星がきれいだ。力が回復するようだ」
晴れ渡った夜空の星の光を全身に受け、私は少しずつ体の変化を解き始めた。
こういうきれいな星空の下では、元の姿で星の光を受けるほうがいいのだ。
「さて、久々だし手入れをしておきますか」
私は早速自身のふさふさした銀色の尻尾の手入れを始めた。
(誰かが近寄ってくる)
しばらく手入れをしたところで不意に人の気配を感じ、手を止め身を潜める。
妖狐の姿の時の私は、そうそう見つかるものではない。
焚火は念のために消し、そっと様子を窺った。
「姉様、警戒されてしまいました」
幼い少女の震える声が聞こえてきた。
どこかで聞いたことのある声だな。
「仕方ありません。普通に声をかけましょう。エイジ様、私です、柚葉です」
姉様と呼ばれた少女が、そう声に出す。
柚葉がなんでここに?
「うーん。だめですか。ええっと。エイジ様。いいえ、御神楽詠心(みかぐらえいしん)様。そのままのお姿で結構ですので、お姿をお見せください」
柚葉はエイジではなく、私を御神楽詠心と呼んだ。
その名前を知っている者は同郷のもの以外にはありえないはずだ。
「私の本名を知っている? 柚葉、そして瑞葉。君たちは何者だ?」
数年前に旅の途中で出会った姉妹だが、彼女たちの出身を私は聞いたことがない。
ガイは聞き出そうと試みていたようだが、『東のほう』とだけ答えられ、それ以上聞き出すことはできなかったようだった。
「はい。私たちは、あなた様と同族、そして同郷の者です」
「同じ種族、妖狐族です」
一見すると普通の人間のようにしか見えない姉妹だが、どうやら変化をしていた同族のようだ。
身を乗り出し、確認してみると、月明かりに照らされ輝く狐耳と尻尾を確認することができた。
どうやら本当のようだ。
「そうか。君たちが同族だとは思わなかったよ。ところでここにはどうして? ガイのところはいいのか?」
私はそう言いながら、二人にそっと近づいて行った。
指を鳴らし、光を灯す。
ぼんやり浮かぶ白い光に照らされた二人の姿は、確かに妖狐族のものだった。
柚葉は金色、瑞葉は銀色の毛を持つ妖狐の姉妹。
人間に化けているときは黒だったのでおそらく結びつかないだろう。
「信じて、もらえましたか?」
「エイジ様、いえ、詠心様が追放されるってことは、アマリアからシリスちゃんが聞いてた……」
「ということはシリスも知っているってことか」
「はい。ガイ様のパーティーは理由を付けて一方的に脱退してきました」
「あの人の目、怖い……」
「まぁ、たしかにね」
まだ幼いが、姉の柚葉はしっかりしている。
まだまだ他人が怖いらしい妹の瑞葉は、姉にしがみつきながらも私の問いかけに答えてくれた。
「もう門も閉まっていることだし、どうしたものか」
「詠心様は故郷にお戻りになられるのですか?」
私が二人の処遇について悩んでいると、柚葉がそう尋ねてきた。
「そのつもりだ。まぁ多少冒険したりしようかとは考えているけどね」
これからの予定を軽く伝えると、柚葉は覚悟を決めたようにこう言った。
「私たちも、詠心様の旅に連れて行ってください!!」
本気か? と問おうと思ったが、やめた。
柚葉の目には確かな決意がうかがえたからだ。
そして、怯えながらも瑞葉も私から目を離さない。
「ふむ。わかった」
「ありがとうございます!」
「……あり、がとう、ござい、ます」
思えば、パーティーに所属していた時から柚葉と瑞葉、シリスとフィリスは私に好意的であったし、何かと世話を焼いてきた記憶がある。
まぁそのせいで、ガイが激怒した可能性はあるが仕方ない。
「ところで、柚葉と瑞葉はなんで私を追ってきたのかな?」
一番の疑問点はここだ。
どうして彼女たちは私に正体を明かしついていきたいと言ったのか。
「はい。私たちの家は代々、妖仙郷の伏見社の管理をしてきました。もう数年前になりますが、父が慌てたようにこう言ったんです『妖精郷の主がまたいなくなってしまった! 急いで探しに行かねばならん!』と。それから父はいそうな場所を探し回り、数年経つ頃にはとうとう腰を悪くして寝込むようになってしまったんです」
「それで、私と姉様は、まだ探していないここに来た……。そしたら見つけた……」
「はい。ですが、肝心の詠心様はガイ様となぜか誓約を結んでおり、自由に動けない状態となっていました。なので、解除されるか追放されるまでお待ちしていた次第です」
「怖かった……。早く解除してもらって帰りたかったのに、あの男がしつこく迫ってきた……」
「ただでさえ怖がりな妹が、今ではすっかり男性恐怖症に……。それはともかく、ようやく解除された今、もう一緒にいる必要はないので脱退して追ってきた次第です」
「こっそり詠心様のお世話頑張った……。夜は姉様やシリスちゃん、フィリスちゃんと集まって一緒に結界張って寝てた……」
「あはは……。」
力なく笑う柚葉を見て、なんだかいたたまれない気持ちになってしまった。
彼女たちに辛い思いをさせたのは五年前の愚かな私なのだから。
「気持ちは理解した。ガイは少々暴力的だからな。怖くて言い出せないこともあるだろう。非は私にもある」
「いいえ、いいえ! そんなことはありません!」
「詠心様のために頑張って耐えた……。だから、今は嬉しい……」
愚かな私の謝罪を受け入れてくれた二人は、泣きながら私にくっついた。
そんな二人の頭を撫でながら、私は共に行く決意を固めた。
こうして私と柚葉、瑞葉の三人での旅が始まったのだ。