ゲームと小説と遊びの子狐屋じゃくまるブログ

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目が覚めたら洞窟の中でした。仕方がないので生活環境を整えつつ帰還を目指します。 第7話 協力関係

 結論から言おう。

『アレ』の残滓は全くと言っていいほど残っていなかった。

 正確には逃げた痕跡が女神テューズの周辺の空間に残されていた。

 どうやら『アレ』は私のことを覚えているらしい。

 でもなぜ逃げたのだろうか。

 その気になれば、今の私を襲うことも可能だったのではないのか。

 

「女神テューズ、今のあなたには残滓は残っていません。少し静養すれば元通り仕事もできるでしょう」

 私は結論だけ伝えると、一言も話さない従者たちのほうを見る。

 さくらは困った顔をしているし雛はあわあわとした表情をしている。

 うん、これはつまり……。

 

 私は二人の表情の意味を考えた。

 それから意を決して、鈴のほうを向く。

 

「……」

 見事なジト目が私を見つめていた。

 

 一瞬困り、さくらたちのほうをちらっと見ると、何やら両腕を広げては閉じる仕草を繰り返していた。

 思わぬ助け舟。

 その助言のまま両腕を広げて、おいでと伝える。

 

「……」

 鈴は相変わらずジト目のままだったが、私に向かって進んでくるとすっぽりと腕の間に収まった。

 そして、そのまま抱きしめると鈴はゆっくり頬ずりをしながら胸に顔を埋めていった。

 ただ何も言わず、頭を撫でる。

 ぴんと突き出た狐耳をそっと撫でると鈴は小さく声を漏らした。

 

「ありがとう。鈴」

「……」

 鈴は何も言わない。

 けど、少しだけ掴む力が強くなったように感じた。

 

 それからどれくらいの時間が流れたかはわからない。

 しかし、そんな時間も不意に終わりを告げた。

 周囲の空間が歪み『アレ』の一部がこっちに出てきたからだ。

 

「戦おうというのか?」

 そう言うと『アレ』の突きだした触手がぴくりと動き、左右に数度振れてから一瞬にして前に小さな魔法陣を展開した。

 

「!?」

 従者たちが一斉に動くが、私にはその魔方陣の意味が分かっていた。

 

「みんなは少しだけ待っていてほしい」

 そう告げて、触手の前の魔法陣に触れた。

 

『対話は初めて。次元超越者。または狩人』

 はっきりとした流暢な言葉が頭の中に響く。

 

『なぜ今になって戻ってきた。私たちの確執は知っているはず』

『共存』

『? どういうことだ』

『あなたとの戦いで、わたしたちは力の多くを失った。もはや以前のようにあらゆる場所に行くことはできない』

 たしかに、討滅を視野に入れた弱体化作戦を継続してきた過去があるし現在も命令は実行されている。

 だからと言って『アレ』がこのような行動に出るとは思わなかった。

 意思があることだけは確認できていたんだけどね……。

 

『何が目的だ?』

 考えが読めない。

『わたしたちの支配を受けない唯一の存在。わたしたちと同等同種と判断した。ゆえにわたしたちはあなたと契約し、あなたの支配下に入ることを決めた。それを条件に【フリージア】を止めてほしい』

 それは懇願にも近いお願いだった。

 

【殲滅型深次元航行艦フリージア】は戦闘に特化した艦だ。

 元々は『アレ』対策のために作られたものではなく、母星を含む銀河系1つを滅ぼした裏切り者の同僚との戦闘用に作られたものだった。

『アレ』に対しても有効なことがわかったのは、ある程度駆除を始めてからのことだ。

 それからは別に命令がない場合は、自動航行させて『アレ』を殲滅するように指令を出していたのだ。

 

『わかった。それについては対応しよう。だけど、まだ全面的に信頼できるわけではない。君たちのこともまだ十分に理解しているわけではないからね』

 一時的に受け入れることはできるが、その先はどうなるか分からない。

 とりあえず、いま私ができる約束だけはしておいてもいいだろう。

 

『それはわたしたちもおなじ。人間たちと私たちは違うけど人間たちのことは簡単にわかる。でもあなたのことは何一つわからない調べられない見つからない』

 どうやら『アレ』も私のことを調べたようだ。

 だが見つからないのも無理はない。

 

『とりあえずしばらくは同盟ということでいいか?』

 これは今私にできる最大の譲歩だろう。

 

『それで構わない。約束通り一時的にわたしたちの管理権限をあなたに譲る』

 しかし律儀にも『アレ』は支配下に入ると宣言した。

 

『とりあえず、その姿と気配はどうにかできないかな?』

 今の姿は空間の歪から一本だけ触手が出た状態だ。

 その上、あらゆるものが忌避しそうな不快な気配を振りまき続けている。

 

『では、人間の姿に倣うことにする。気配についてはわたしたちというよりわたしたちのいる空間が問題。そのうち消える』

 そう言うと『アレ』は黒髪の少女の姿へと変化した。

 元の性別はわからないが、おそらく同じなのだろう。

 周りからは驚きの声が上がるが無視することにした。

 

『名前はどうするつもり? それとできることややりたいことはある?』

『ん。名前は決めて。それは契約になる。できること、わたしたちの特性を使うくらい。その範囲ならなんでも』

 問いかけに対して『アレ』はそう答える。

 名前か……。

 

『名前は【シア】にしよう。地球のトルコの言葉で黒いという意味だ。できること、そうだね。物資の提供は可能かな?』

『【シア】。わかった。今日からわたしとわたしたちはシア。物資の提供は可能。素材となる粒子や原子、いくらでもある』

 どうやら話はまとまったようだ。

 今後はどうしてもらうかを考えつつ、物資の提供をしてもらうことにする。

 

「みんな、聞いてほしい。『アレ』との戦いは休戦となった。交渉により、『アレ』ことここにいる【シア】は私の配下となった」

「ほ、ほんとうですか?」

「対話が可能なんて……」

「驚き」

「なぜこのタイミングで……」

 従者たちは驚きを隠せない様子だった。

 無理もない。

 そもそも今まで、接触してきたことすらないのだから。

 

「まだ信用はできませんが、一応了解しました。ただ、見張ることだけはお許しください」

 さくらが私を見てそう話す。

 

「それは構わない。今後は仕事を頼むかもしれないし。でも、過度に警戒して不和を生じても困るからね」

 もしかしたら、今後生態についてわかるかもしれない。

 なぜ何もない空間に存在し、終わった宇宙を食べているのかなどについてもだ。

 

「物資の提供と聞きましたけど~、どうやってですか~?」

 雛の疑問もよくわかる。

 

「わたしたちは終わった宇宙、凍り付いた宇宙を食べて還元する。一つのリサイクル機構を有する。新たな宇宙が生まれるかは問題じゃない。ただ不要な世界を新しく生まれる状態にするだけ。終わった宇宙の残骸は粒子になって貯蔵される。その粒子はいくらでもある。それを提供する」

 ということのようだ。

 今後、シアにはリサイクルなどをお願いし、不必要に世界にモノがあふれないように調整してもらうことになると思う。

 

「興味深い」

 そんなシアに鈴は興味津々だ。

 案外シアと鈴は馬が合うかもしれないな。

 

「ご主人様がそうおっしゃるのでしたらわかりました。わたくしは受け入れます。テューズ、いいですね?」

「はい、お姉様」

 おそらく一番物分かりがいいのは雛菊かもしれない。

 今後トラブルが起きそうなら雛菊を間に入れるのもありかも。

 

「じゃあ話はここまでだ。これからのことを地上に戻って考えようか。それと、【フリージア】を近傍に待機させておくよ」

 シアとの約束もこれで守れるだろう。

 あとはこれからのスローライフ計画をみんなで立てるだけだ。