こんにちは、じゃくまるです。
これは試作の2話です。
用語には気を付けているつもりですが、差別っぽい表現があったら指摘お願いします。
追放宣告を受けたボクは海軍の船に乗せられて海を渡っていた。
檻に入れられマストから吊るされたボクはどう見てもただの罪人だ。
とはいえ、ボクに向けられるみんなの視線は侮蔑のそれではなく、憐みの視線だった。
「嬢ちゃん。今回のことは本当に気の毒というか」
「いいんですよ。こうしてロリコンから逃げられたんですから。キメリス様には感謝してもしきれません」
折に入れられているとはいえ、トイレにも行けるしご飯もくれる。
さらに言えばクッションも用意してくれるという優遇っぷりだ。
「しっかし、キメリス様にも困ったもんだよなぁ」
「あぁ。男を見る目がねぇな。いや、確かに勇者殿は有能だけどな? キメリス様がいくら言い寄っても無反応な時点で察するべきだと思うんだよ」
「そんな勇者の正体が、年端もいかない女の子好きだとは誰も思うまい」
海軍の軍人さんは王家についてあれこれ愚痴を言い合っていた。
特にロリコンとキメリス様についての愚痴が多いように感じる。
「それにしてもひどいよなぁ。国外追放だけならまだしも、無人島に追放とか」
「行先は大きな島だけど、猛獣もいればドラゴンもいるっていうじゃねえか。いったいどうなってるんだ」
「それだけ女の恨みはこわいってことかよ」
「ちげーねぇ」
「「ハハハハハハハハハ」」
船員さん大盛り上がりである。
「しっかし、嬢ちゃんよ」
「どうしました?」
「嬢ちゃんのような種族は見たことないんだが、どこの種族なんだ?」
船員さんはボクの種族に興味津々な様子だ。
「妖狐族ですよ。勇者とは別の異世界に住んでいる種族ですね。修行のためにこの世界に来ています」
だったら異世界に帰れよという話ではあると思うけど。
「へぇ~、異世界。そいつぁすげぇな! じゃあなんだ? いずれ帰っちまうのかい?」
「そーなります~」
といっても、帰るためには帰るための準備をしなければいけないわけで、もうしばらく時間がかかってしまう。
「そういえば、今から追放される島って、どこの国の物なんですか?」
「島に住んでいる竜族の領域だからどこの国も領有はしてないぞ」
「へぇ~」
竜族。
この世界ではほぼ生態系の頂点にいる種族だ。
下級種はただの大きな空飛ぶトカゲだけど、上位種になると人化もするらしい。
神代種は神に次ぐものとして語り継がれているという話もある。
まぁ早い話が化け物ということ。
「それにしても嬢ちゃんは恐ろしいほど落ち着いてるな。嬢ちゃんくらいの年齢なら泣いても罰は当たらないぞ」
どうやらボクが泣き喚かないことに驚いている様子だ。
「そうですね。ある程度実力があるっていうのもそうですけど、故郷の世界との繋がりはありますからね。それに、この世界には関連した商会や神殿がありますから」
そういえば、ボクがカルバニア王国を追放されたことを彼女たちはもう知っているのだろうか?
もし知っているとしたらそろそろ連絡が入るころだろうか?
「そろそろ島に着くが、最後にこれだけは言っておくぞ、嬢ちゃん」
島の姿が見え始め、旅の終わりが近づいているのがわかる。
島の姿をじっと眺めているボクを見ながら、船長さんは口を開いた。
「王国はああ言っているが、俺達には関係ねぇ。そもそも俺たちはカルバニア王国及び南部諸王国連合国の構成国ってだけでカルバニア王国だとは思ってねぇ。つまりだ、南部諸王国側は嬢ちゃんをいつでも受け入れる覚悟があるってことだ」
ボク自身、カルバニア王国についてはほとんど知らないけど、どうやら南部諸王国とカルバニア王国自体には確執があるように感じた。
船長さんの言いたいことは分かるけど、じゃあ亡命しますとも言えない。
「俺たち海軍は南部諸王国の所属だ。つまり、カルバニア王国軍じゃねえ。俺たち自身は命令に従っちゃいるが、嬢ちゃんを支援する気持ちがある」
「えっと?」
何が言いたいかわからず困惑する。
どうしたいのだろうか。
「長く生きられるかはわからねえが、向こうに着いたら食糧と幾ばくかの金銭、それと種と道具一式を置いていく。それと週に一回、島に商人を送る。これが今俺たちができる最大の支援だ」
船長さんの顔を檻の中から見る。
ニカッと笑う船長さんの顔には、何かの作戦があるように感じた。
もしそうだとしたら、船長さんはボクに何を期待しているのだろうか。
「嬢ちゃん。生き延びろよ」
「わかりました。まぁ魔法もそれなりに使えるのでそちらに必要な品も出せるかもしれません。週に一度の交易、楽しみにしています」
「おうよ」
こうしてボクは無人島に降り立った。
船は小舟を一艘残して去っていく。
ボクは浜辺に立ちながらそれを見送っていた。
「さて、物資を調べるのは後にして、まずは食料になりそうな動物でも探しますか」
船が見えなくなるまで見送り、さっそく島の探索を始めることにした。
「遠くに見える高い山が竜族の住処かな? 住みにくそうな場所だよね」
あんな山の上に住んでいて楽しいのだろうか。
「さて、周囲によさそうな獲物はいるかな~」
地面に杖の先端を軽く突く。
杖を介してボクの力と感覚が周囲に広がっていくのを感じた。
(近くにいるのはイノシシと狼か。イノシシはお肉にして狼は毛皮かな)
「よし、いきますか」
狩猟する獲物を決めたらさっそく狩りに出発だ。
島の海岸から少し中に入ると、すぐに森に行き当たる。
森はかなり広いようで、多少木を切ったところでなくなりはしないだろう。
あとで小屋を作ることも考えたいけど、ボク一人でできるかは怪しい。
(寝るなら物資の入っていた木箱の中が一番いいかな)
幸いにしてボクの体は小さいので木箱にもすっぽり収まるのだ。
「狼さんイノシシさん、でておいで~」
まだ日は高いので狩りをする時間はたっぷりある。
周囲の探査で獲物の位置を確認したボクは、一直線にそちらに向かう。
しばらく歩くと地面を掘り返しているイノシシを見つけた。
早速狩猟の時間だ。
(う~ん……。頭を狙いますか。『土槍』)
狙いを定め、心の中でそう呟き杖の先端で地面を突く。
その瞬間、イノシシのあごの下から鋭く尖った土が槍のように隆起して、イノシシの頭部に突き刺さった。
イノシシはしばらくビクビクと動くとそのままぐったりとしてしまう。
「イノシシゲット。さて、血抜きをしないと美味しくないからやらないと……」
早速血抜きを始めたいところだけど、力が足りないことに気づいた。
さて、どうしよう。
「お手伝い呼びますか」
そう決めたボクはさっそく召喚魔法を行使する。
「おいで【セリス】」
地面に描いた魔法陣に力を流し込み、対象の名前を呼び杖で突く。
すると地面に描かれた魔法陣が淡く光り、中央から何者かが光とともに現れた。
「はーい。主様! 【土の上級精霊セリス】が来ましたよ!」
呼び出されたのは、茶色い髪の毛の可愛らしい美少女だった。
ボクよりは身長が高いので見下ろされる形になるが仕方ない。
「いらっしゃい、セリス。今日からしばらくこの島で暮らすことになったんです。獲物の解体と血抜きをしなきゃいけないんですけど、力が足りないのでセリスに手伝ってほしいんです」
そう言いながらボクは倒れているイノシシを指す。
「イノシシのですか? わかりました。すぐにやりましょう」
セリスはそう言うと、イノシシを回収して持っていたナイフでおなかを開き始める。
そしてそのまま木に吊るして血管を切開し、血をドバドバだして血抜きを始めた。
「ところで、主様は何でここに住むことに?」
キョトンとした顔でセリスが聞いてくるので、ボクは簡単に説明することにした。
「ロリコンに迫られて殴り飛ばしたら王女様に見つかって逢引きを疑われて島流しにされました」
一息で言い切ってやりました。
「あらー。それだったらもう帰ってくればいいじゃないですか。……もしかしてまだ帰りたくないとか?」
「うぐっ」
セリスはボクの核心を突いてきた。
「いや、あはは……」
セリスはほんわかしていてかわいいのに、時々鋭いから困る。
「精霊王様たちも今回の修行について疑問を持っていましたからね。精霊王様たちじゃなくてあたしを呼んだ理由もそのあたりにあるのでは?」
「いや、まぁ……」
まずい、墓穴を掘ったかもしれない。
ボクはどう言い訳しようか考えるのに必死だった。
「それに、あまり遅いと鬼那様が痺れを切らしてこちらにやってくるかもしれませんよ?」
「そ、それはだめ!!」
せっかく鬼那から逃げるためにこっちに来たのに、追いかけてこっちに来られては困るというもの。
「まぁいいです。しばらくはあたしも付き合いますから、この島を快適に変えちゃいましょう」
「うん。ありがとう」
こうして協力者を得たボクは、島での逃避生活を始めた。
まずは快適な住居と設備を用意するためにがんばるぞ!!