森の中に建てられた三階建てのログハウス。
ログハウスというには大きすぎるし、持ち運べるよう設計されているので基礎がない。
一応下が一番重く頑丈になっているようなので、不具合があったらその時に対処しようかな。
「さすが職人。すごい」
ボクが褒めるとミレが胸を張った。
ログハウスの中は細かく仕切られたり家具がすでに配置されたりしていて、ロッジのような宿泊施設と何ら変わらない設備が用意されていた。
壁にはカンテラが設置されており、通路を明るく照らしていた。
あのカンテラの中の光る石はなんなんだろう?
しかし、あの短時間の間によくここまでのものを作ったなぁと感心していると、ミレが手を引いてきた。
しきりに奥を指さしているので案内したいようだ。
というわけで、イーサさんとボクはミレについていくことになった。
このログハウス内には見た目以上にたくさんの部屋があるが、一部は魔法的な力を感じる場所があるので何かをやっていることは間違いないと思う。
部屋数は多く見た目的にも普通の良い部屋だが、トイレとお風呂、キッチンと倉庫からは魔法的なものを感じられた。
三階にはサロンのようなものと屋外露天風呂があったので、ミレたちの力の入れようがわかるというもの。
ちなみにこの露天風呂はボクの発案ではない。
一階の一番奥の扉からは謎の力を感じるが、今はミレが案内してくれないので入れなかった。
ちなみに、地下はないはずなのに地下室があった。
鍛冶設備や彫金設備など、各種生産施設があるようでかなり広い。
これ、確実に空間いじってますね?
「う~ん、フェアリーノームはすごいね。異界の神々という説は正しそうだ」
感心したようにイーサさんがそう言った。
なるほど、異界の神様という線はありそう。
あれ? 異界の神様だとしたら、ボクは異界の神様にも自由に頼みごとができるってこと?
うわっ、なんだか怖くなってきた。
「ミレ、ありがとね?」
予定外のものも付属しているけど、ボクの欲しいものもついていたのでミレにお礼を伝える。
ミレはうれしそうに踊っていた。
「ところでミレ、イーサさんも一緒にこの建物使っていい?」
大事なことなので聞いておく必要があった。
すると、ミレは親指を立ててサムズアップする。
いいらしい。
「イーサさんも使っていいですって」
「お、それはありがたい。一緒に行動するときはお願いしようかね」
「うん? 一緒に行動できない時もあるんですか?」
「もう少ししたら一回神界に帰って仕事を終わらせないといけないからね」
まぁそうですよねと思った。
曲がりなりにも神様なのでボクの手助け以外にもやることはたくさんあるはずだ。
いくら姪であっても常に一緒にいるというわけにはいかないだろう。
「何か問題が起きたらすぐに駆け付けるようにするから、そこは安心してほしい」
「はい」
どうするのかはわからないけど、たぶん安全ではあるはずだ。
いずれにしても、イーサさんに全部任せるわけにはいかないのでボク自身がもっと強くなる必要がある。
「ミレ、私がいない間は遥のことを頼む」
イーサさんの言葉を聞いたミレは力強くうなずいた。
「懐かれているね、遥は」
そう言われると少し照れるんですが……。
夜。
ログハウス内には十人のフェアリーノームとボク、そしてイーサさんがのんびりとくつろいでいた。
まぁイーサさんに至っては武器の手入れをしているんだけどね。
ちなみにボクはなぜか、フェアリーノームたちに纏わりつかれて身動きが取れないでいた。
狭い穴に密集して入るハムスターのようにボクを中心にフェアリーノームたちがぎゅうぎゅうに詰まっているのだ。
「く、苦しい」
ここにきて分かったことがある。
フェアリーノームたちは仲のいい人と密着することを好むようだ。
もしかすると力的な何かを補充しているのかもしれない。
まぁ何かを取られている感じはしないので問題はないだろう。
というか密着するだけならいいんだけど、さわさわすりすりするのはやめてほしい。
くすぐったいし変な気分になるから……。
そろそろ夕食の準備をしようかなと思い始めたころ、ボクはミレたちに持ち運ばれて三階まで連れていかれた。
どうやらお風呂に入るようだ。
なぜボクまで?
三階の露天風呂は大きめに作られていて、十人入っても余裕がある大きさになっているようだ。
ボクはあというまに服を脱がされて裸になると、そのままミレたちに洗われる。
昨夜は身体を拭いただけだったのでお風呂は久しぶりだ。
女の子になって初めてのお風呂なので、恥ずかしいけどミレたちに洗われて助かったかもしれない。
丁寧に洗うミレたちの手の動きとか順番を見ながら、一人で入るときのシミュレーションをしておこう。
余談だけど、ミレたちフェアリーノームはボクの身体と違うところは何一つなかったことを付け加えておく。
ミレたちフェアリーノームはボクの身長より少し小さいくらいの大きさで、顔は幼めの美少女といった感じ。
髪型も色もそれぞれなので、似ている子もいるけどバリエーションはあるように思う。
人間の女の子と一緒にいたら違和感はないね。
まぁ今のミレたちには狐耳と尻尾が生えているんだけど。
ミレたちとのお風呂は控えめに言って楽しい。
ボクも含めみんな体が小さいので露天風呂で泳げるし飛び込んだりもできる。
お行儀悪いのはわかるけど。
そんなことを考えつつのんびりお風呂に入りながらミレたちの様子を見る。
ミレたちのうち、何人かはお風呂でストレッチや柔軟をしていたりマッサージをしていたりしていた。
ちなみにミレはボクの隣でゆっくりお湯に浸かっている。
みんなお風呂をエンジョイしているようだ。
でも大開脚してのストレッチは服を着ているときにやったほうがいいんじゃないかな?
色々丸見えで申し訳なくなってくる。
そんなことを考えていると、突然ミレがボクをストレッチに誘ってきた。
ちょっとまって? それって裸で足開かなきゃいけなかったりする?
さすがに男の体だろうと女の体だろうとそれは遠慮したいんですが……。
しかし抵抗むなしくボクはストレッチをする羽目になった。
開脚は抵抗したけど無駄だったよ……。
死ぬほど恥ずかしかったので、できればもうやりたくない。
その後はみんなで体を乾かしあい、夕食へと向かった。
夕食はなんとクリームシチューとハンバーグだった。
ボクも手伝ったけど、この世界でこれを見ることになるとは思わなかった。
もしかしてミレたちの世界には地球と同じような食べ物があるのだろうか。
夕食後は寝るまでミレたちと押しくらまんじゅうをして遊んだ。
久しぶりにやったけど、みんなテンションが高くてやっていて楽しかった。
また機会があったらやってもいいかもしれない。
ちなみに寝間着はミレが用意したベビードール風のネグリジェだった。
みんな同じものを着ていたので、フェアリーノームの間で流行っているのかもしれない。
でもこれ、すっごく恥ずかしいんですけど……。
こうしてボクたちの一日は終わった。
最後はイーサさん以外のみんなで集まって眠ったのでとても心地よかった。