朝、いつも通りミレたちに起こされた。
横を見ると三段積みになったフェアリーノーム。
「またか」と思いつつボクが身を起こすと、待ってましたと言わんばかりにミレを含む複数のフェアリーノームによって露天風呂へと運ばれた。
朝のお風呂はぬるま湯でゆっくり浸かるのがフェアリーノームたちの定番なようで、心地よくてうっかり寝落ちしそうになる。
熱いお湯は目が覚めるけど、色々と問題もあるらしいので考え物かもしれない。
案外ボクは、このぬるめの朝風呂を気に入っていたりする。
朝風呂が終わると、フェアリーノームたちに体を拭かれる。
全身くまなく包まれるように水気を吸い取られ、温風で毛を乾かす。
生乾きは臭いの元なので、念入りにゆっくりと。
それが終わるとお着替えの時間になる。
本日の服はミレがにっこり微笑みながら持ってきた白いフリル付きブラウスと黒いコルセットスカートだ。
組み合わせられるのは黒のガーダー付きソックスなようで、靴は黒のショートブーツが選ばれた。
基本的にブラウス以外は黒中心なのかな?
あとは黒いベストをブラウスにつけるようで、黒多めな気がする。
靴下くらい白でもよかったかな?
これにこげ茶色の革のプロテクターを肩・肘・膝に装着し、戦う際は胸に革のブレストプレートを付けるようだ。
おなかだけ無防備な感じになるね。
「ふむふむ。ふむふむ。これはこれは」
ミレが姿見を持ってきたので試しににっこり微笑んでみる。
鏡の中のボクはきれいなプラチナブロンドを揺らし、同色の狐耳を生やしている。
先ほど着替えた服に、髪と同色の尻尾が黒いコルセットスカートの下からちらちらと覗いていた。
うへへ、かわいい。
やっぱり鏡の中のボクは可愛らしいと思う。
「ミレ、どう思う?」
ミレはこくんとうなずくとサムズアップして評価してくれた。
どうやらご満悦なようで、さっそくカメラを取り出した。
「え? ちょっとスカートを軽くたくし上げてほしい? どこまで?」
ミレからの要求は中身が見えるか見えないかのぎりぎりのラインまでということだった。
「う、うん。これでいい?」
ミレは実に満足そうに写真を撮る。
その後もミレの要求に応えて胸元を軽くはだけるような姿をしたり、寝ころんだ姿などをしたりしていった。
ミレは終始シャッターを切り続けていたけど、それ、ポラロイドタイプじゃなかったっけ?
「そろそろ愛用の釘バットも改造しようかなぁ」
ミレの要求に一通り答えた後、ボクは愛用の釘バットを持ちながら考え事をしていた。
いつも思うけど、この姿に釘バットというのはどうにも背徳的だ。
何かいい素材が手に入ったら【アイテムクリエイト】を試してみよう。
「そういえば、この世界のことよく知らないなぁ」
この世界にはどんな素材があるのだろう? どうせ作れるのだからいろいろ試してみたい。
とりあえず、お母さんに聞いてみようかな?
『お母さん、ちょっと聞いていいですか?』
これで通じるかな? と思ってテレパシーを送ってみる。
やり方はミレから習ったのでたぶんできるはず。
『あら? 遥ちゃんから連絡が来るなんて嬉しいわ。お母さんに何が聞きたいのかな?』
少ししてから嬉しそうなお母さんの声が聞こえてきた。
『えっと、この世界ってどんな素材があるのかな~と思いまして。ボクが向かう王都についてもさっぱりですし』
イーサさんは知っているようだけど、ボクはこの手の情報を一切持っていない。
かといって村に行くのはそれはそれで怖いわけで……。
『そうねぇ。それなら雄一郎さんが詳しいんじゃないかしら。雄一郎さん、昔はその世界で勇者をやったことがあるのよ』
『えっ!? そうなんですか!?』
雄一郎というのはボクのお父さんの名前だ。
現在は神社で宮司をやっている。
『お母さんとの出会いもその時なの』
どうやら昔はお母さんもこの世界に来ていたようだ。
何をやってたんだろう?
『そうねぇ。雄一郎さん、そっちとこっちを行き来できるようになっているから時間が空いたら手助けに行ってもらえるように頼んでみるわね~』
お母さんは軽いノリでお父さんを派遣することを約束した。
というか仕事ほっぽり出してこっち来るとは思わないんだけど。
『お父さんは仕事忙しいですよね? 今は時期的にお祭りの前ですし……』
『お父さん、息子が娘になったので会いに行きたい! って駄々こねてたわよ? 二人目ができるかはわからないし、娘ができたのがうれしいんじゃないかしら』
お父さん、息子だったボクも思い出してあげてください……。
なんかそう言われるとすごく複雑です……。
『わかりました。ところでお母さん? 釘バットを強化したいのですが、いい素材ありませんか?』
『ん~。そのあたりなら青肌一族の村があったはずね。そこで妖精銀を貰うといいんじゃないかしら』
『そういえばそんな話を聞きました。先日救助した人が青肌一族の人だそうです』
『あら、ちょうどいいわね。妖精銀は市場に流通しないから貴重よ。人間の国にも出回らないもの』
『え? じゃあ彼らはどこに輸出してるんですか?』
『それは、私の世界によ』
どうやら妖精銀はお母さんの世界に輸出されていたらしい。
びっくりだ。
『お母さんの世界って?』
『それは、今度案内してあげるわね。神様になった記念に。そうそう、遥ちゃんが世界を作ったら妖種を増やしてね? ほかの種族の子ならうちの世界から出してあげるから』
『なんだかすごい話を聞いた気がします……』
これは神様あるあるなのだろうか?
よくわからない……。
『ところで、お母さん。この世界でお父さんが戦っていた相手って誰なんですか?』
お父さんが勇者をやっていたのはさすがに驚いた。
けど、誰と戦っていたんだろう? 魔王とかいたのかな?
なんとなくよくあるファンタジーものの世界をイメージしてみた。
でも、そんな話は聞いたことないしなぁ。
滅びたとか?
『雄一郎さんが戦っていたのは、【魔物の王】とそれを操る【亜神】よ』
『えぇ……』
わお。ボクのお父さんは想像よりずっと強かったようだ。
やっぱり、この世界にも亜神はくるんだね。
衝撃的な事実を聞かされたボクは、あれこれと考え事をしながら食堂に向かうのだった。