さて、今日からは移動の準備をしたり多少のお金を工面する必要があるわけで、お母さんを軽く案内してから始めようと思う。
というわけで、現在ボクたちはお母さんにログハウスの中を見せている最中だ。
そもそもの話、丸太で組まれているからログハウスなんだけど、実質ロッジなのでもうロッジと言い切ったほうがいいような気がしている。
というわけで、もうロッジに名称を変えようと思う。
「地下階はミレたちが勝手にいろいろ改造しているので、何があるのかは把握しきれていません。地面を掘って造っているわけではないのでこの世に物理的に存在してすらいませんね」
このロッジの地下は見るたびに設備が増えていく。
色々な生産設備があったと思ったら、今度は小規模農場まで作られているのだ。
栄養はどこから来ているのかとか日照はどうするのかとか諸々の問題が解決されていないにも拘らず、作物が育っている。
しかも、ちょっと成長速度が速い……。
「神族から見てもここは独特ね。複雑に色々絡み合っているのになぜかすっきりしているわ。一見絡まり合った紐に見えるけど、簡単にほどけるくらいにね」
何のことかわからなかったけど、どうやらここに使われている力の流れの話らしい。
「ここはボク専用の工房らしいです。まだ入ったことないんですけど」
ボクが知らない間にできていたボク専用の工房。
いったいどんな風になっているのだろうか。
「早速入りましょうか」
お母さんの言葉でミレが動く。
ミレが扉を開けると、そこには三面鏡や各種服が置かれているドレッサーのようなものとティーセットなどが置かれた棚、テーブルにソファーが配置されていた。その先には作業台や工具などが置いてある。
「作業台とか工具はいいけど、ドレッサーとかっているのだろうか?」
ボクたちの部屋にも大きいのがあったよね?
ミレのほうを見てみると、音のならない口笛を吹きながらそっぽを向いている。
うん、これは完全にミレの趣味だけで設置したね。
「じゃあ撤去を。ちょっとミレ、邪魔しないでほしいんだけど」
撤去指示を出そうとしたら、ミレがボクの腕に引っ付いて抗議の意思を示してきた。
妙に真剣な表情をしながら引っ付いているので、必死なんだと思う。
「撤去してほしくないと?」
激しくこくこく頷くミレ。
最近気が付いたけど、ミレって結構趣味に生きていると思う。
「ミレちゃんって表情豊かねぇ。フェアリーノームちゃんたちと交流したことなかったからとても興味深いわ」
お母さんはとても楽しそうだった。
そういえば、お母さんは子供が大好きだったっけ。
「じゃあ撤去はしないけど、あまり余計なものを増やさないようにね?」
ミレは大きくこくんと頷くと、そのままボクの腕に頭をこすりつけて感謝を表した。
まったく、調子のいい子で。
次にやってきたのは一階だ。主に医務室になるわけだけど、ここにはすでにミカとミナが白衣と看護師服を着て待機していた。
「ここが医務室ですね。ミカとミナの趣味で構成されています」
「あら、日本の病院みたいな感じなのね。すごいわ~」
お母さんが感心したような声をあげると、ミカとミナはちょっとだけ嬉しそうに胸を張っていた。
「あとは倉庫とかですね。軽く見たら次へ行きましょう」
一階の倉庫や客間、サロンなどを軽く見て、二階の部屋へと進む。
そういえば、千早さんの部屋割り決めてないなぁ……。
「えっと、千早さんは、どこに部屋、ほしい、ですか? この階だと、イーサ叔父さんと、同じ階になります、けど」
いくつも部屋があるので問題はないと思う。
でも、イーサ叔父さんと鉢合わせするのはどうなんだろう?
「あら? イーサお兄様もここなの?」
「はい。適当にくつろいでもらってます」
「へぇ~。後で感想を聞いてみるわね」
そういえば、イーサさんはまだ神界か。
「えっと、私は遥様と同じ場所がいいです!」
と、千早さんがそんなことを言い出した。
同じ場所って言っても一か所しかないんだよね。
「ミレたちと、一緒の大部屋、しか、ありませんけど、大丈夫、ですか?」
とりあえず軽く提案。
「問題ありません! 遥様も同じ場所なんですか?」
「はい、同じ大部屋、です」
それを聞いた千早さんはうれしそうに微笑んだ。
「じゃあ、慣れて普通に話していただけるようになるためにも同じ場所でお願いします」
「あ、は、はい。それは、問題ない、です」
実際女の子と同じ部屋でも問題はないと思う。
ボクが緊張するのは仕方ないけど、別に嫌だとかそういうわけじゃない。
もし女性と一緒が嫌だったら、ボクは今後お風呂にも入れないだろう。
というか、最近はミレたちによって慣らされているところはあるかもしれない。
「じゃあここはそこそこにして三階に行きましょう。ここはあとはキッチンと食堂があるくらいなので、あとでもいいですし」
そのままボクたちは三階へ向かう。
三階は階段を上がるとすぐに廊下があり、扉は3つついている。
一つは露天風呂、一つは大部屋、一つは特別サロンだ。
トイレは廊下と大部屋についている。
中にも扉があり、全部に繋がっているので行き来は非常に楽だ。
「ここがイーサ叔父さんも知らない秘密の特別サロンです」
どこかのカフェを彷彿させるような場所で、コーヒーメーカーやエスプレッソマシン、紅茶コーナーや緑茶コーナー、アイスやケーキのコーナーなども併設されている。
また、マッサージなどができるリラクゼーションスペースや書架、プレイエリアなどもあり、至れり尽くせりだ。
「ここはどこかのお店かしら?」
「す、すごいです!」
お母さんが少しだけ呆れ、千早さんが驚きの声をあげる。
確かにすごいと思うけど、作ったのはボクではない。
「えっと、作ったのはミレたちで、発案もミレたちですね」
室内を軽く見た後は大部屋を経由して露天風呂へ向かう。
「大部屋は見ての通り巨大な円形のベッドエリアがあるんですけど、基本あのベッドの上で雑魚寝できます。ここの露天風呂は泳いだりゆっくり浸かったり、寝そべったりマッサージできたりするスペースがあります。一部にはイスやテーブルもあるので食べたり飲んだりもできますね。ちなみに作ったのはやっぱりミレたちです」
ボクがそう紹介すると、ミレたちフェアリーノームが一斉に胸を張った。
どうやら自信作らしい。
「贅沢ねぇ。妖都の温泉よりは小さめだけど、個人で使うには広すぎるし豪華すぎるわね」
「贅沢なお風呂時間が……」
ちなみに星空も見られます。
「防虫対策しているらしくて、虫は入ってこないんですよ。もちろん鳥とかもですけど」
招かれざる者はここに入れないというわけだ。
「千早さんもお母さんも、自由に使ってください」
おんぶにだっこ状態だけど、この設備にはボクも満足しています。
ある意味理想の隠れ家生活かな?