「それで雛はどんな手伝いを求めてるのかな?」
早速雛の求めているお手伝いについて考えてみる。
雛は現在建物の建築の前段階、場所と範囲をあらかた決めた状態のようだ。
ということは、資材運搬とか配置をしてくれる子を求めてる感じかな?
「はい。え~っと、資材はシアちゃんのおかげでだいぶ揃っているので~、あとは建築に取り掛かるだけです~。なので~、建築のお手伝いをしてくれる子がいればいいんですけど~」
これはまた珍しいこと。
いつもなら一人でやってしまうのにお手伝いが必要ということは、寝る場所だけサクサク確保してあとはお手伝いさんに任せるつもりだな?
現に雛は先ほどからとても眠たそうにしている。
「眠い?」
「はい~」
雛に問いかけると簡潔な答えが返ってきた。
これは寝落ちする前にやらないとだめだね。
「じゃあ雛はあとで増築できるように単純な構造で建てちゃってくれるかい? そのほかはお手伝いさんに任せる」
「はい~。おねがいしま~す。あ、呼ぶのは【フェアリーノーム】ちゃんでお願いします~」
間延びしつつもきっちり要望を伝えてくれる雛。
雛はそれだけ言うと寝床になる建物をサクサクと建て始めていく。
雛の建築方法は気分次第で繊細だったり大雑把だったりするため、同じようにはならないことが多い。
とはいえ、眠い状況でもなければ簡単な建物を一棟建てるくらいならあっという間にできてしまうのだ。
「そーれ、よいしょ~」
ずどんという音と共に設定された範囲の四隅に深い穴が一瞬にして掘られた。
続いて「そーれ」という掛け声と共に四隅の穴に支柱となる石材の柱が深々と埋まっていく。
材料提供者はシアのようで、次々と石材や木材を作り出しては積み上げていっている。
さて、床張り要員を呼び出しますか。
「フェアリーノームたち、集まれー」
今回は指は鳴らさない。
彼女たちは呼ぶだけでどこの世界にでも現れるのだ。
呼びかけて少しすると俄かに森の奥が騒がしくなり、ちらほら小さな影が集まりだしていく。
そう、この影こそがフェアリーノームが現れる前兆なのだ。
それから少しすると、影から緑色の髪の小柄な少女たちが姿を現し始めた。
その数は徐々に増えていき、あっという間に十人ほどとなる。
「やぁ、よく来たね。雛の建築を手伝ってほしいんだけど大丈夫かな?」
私がそう尋ねると、先頭のフェアリーノームがサムズアップして答える。
これが彼女たちの基本的な意思表示なのだ。
私の言葉を聞いた先頭のフェアリーノームは後ろを振り向き、徐にホイッスルを取り出して「ピリリリリ」と吹いて鳴らした。
すると、フェアリーノームたちは一斉に仕事に取り掛かり始めたのだった。
「わ、フェアリーノームちゃんたちがたくさんいます」
「お姉様、あの、希少なフェアリーノームがたくさん群れているのですが……」
遅れてやってきた雛菊と女神テューズは、目の前の光景を見てそう口にした。
ん? いつも何となく呼び出してるけど、フェアリーノームって珍しいのか?
そんな素朴な疑問が浮かんだ。
「フェアリーノームってどこにでもいると思ってたけど、珍しいの?」
「えっと、はい。詠春様。女神である私でもフェアリーノームの生態を詳しく知らないのです。どこで生まれてどこで育っているのかなど……」
「へぇ~。そうなのか~」
女神ですらほとんど知らないというのは面白い。
私は結構見かけるし、交流もしているので珍しいという気持ちは理解できないが。
「フェアリーノームはですね、女性だけで構成されたノーム種の亜種なんです。大変可愛らしい美少女の姿をしていて、独自の空間に住んでいます。そこで子供を作ったり育てたりしているんです。たくさんの氏族や属性があるようでして、ご主人様の契約しているフェアリーノームの氏族は今のところ五氏族で、そのうち一氏族がこうして応援に来てくれています。波長が合わないと近寄るだけで逃げ出しますし、捕まえようとすると襲われます。ちなみに波長が合って契約できると、呼ぶだけでどこにでも現れるんですよ」
私の代わりに雛菊が説明してくれた。
私の従者たちはよく知っているが、フェアリーノームというのは本当に不思議な精霊たちだ。
小さい体でも力は強く、集まれば山ほど大きなドラゴンでも簡単に狩ってしまう。
その上不死身だ。
例え一人がうっかり捕まったとしても、人間には聞こえない周波数の音で助けを求め、それを聞いた仲間のフェアリーノームたちがどこからともなく続々と現れては襲撃・奪還するという行動もする。
仲間にすれば心強く、敵に回せば何よりも恐ろしいのがこのフェアリーノームたちだったりする。
「私が聞いた話ですと、その可愛らしい見目に魅了された貴族が冒険者を雇ってフェアリーノームを捕まえたことがあるそうです。すると真夜中に突然大きな音が響き、フェアリーノームを捕らえていた場所が壊されてあっという間に逃げられていたそうです。またある冒険者は不用意にフェアリーノームに近づいたところ、集団に襲われて命からがら逃げだしたとか」
「えぇ……」
その話を聞く限りだと魔物のように聞こえてくるから不思議だ。
「でも、そうですか。フェアリーノームってあんな風に可愛らしく働いてくれるんですね」
女神テューズは建築作業中のフェアリーノームたちを見てニコニコ微笑んでいた。
パワフルに動く小さな体が頑張って働いている姿は確かに可愛いかもしれない。
ちょっと見た目が児童労働っぽいのが気になるけど、一応彼女たちは成人しているので問題ないと思っておこう。
「あ、すごい。あっという間に穴を掘って柱を立てて壁を作って床を張っていきます!」
「雛様のほうももうすぐ一棟完成しちゃいますね。というかなんですかこの異常な早さは」
二人だけじゃなく、さくらもフェアリーノームと雛の建築風景を見つめていた。
その間シアは素材を出し、場所を開けるために分かれたフェアリーノームが森を切り拓いていく。
あっという間に寝る場所となる一棟がもうすぐ完成しそうになっていた。
「これで安心して眠れます~。ふぁ~。フェアリーノームちゃん、あとの建築はお願い~」
屋根まで張り終えて完成した建物の中に、布団一式を持って入っていく雛。
もう寝る気満々な様子だ。
「じゃあ私たちは、雛が起きるまでにご飯の準備をしておこうか。フェアリーノームたち、食材を何か手に入れてきてもらえるかい?」
フェアリーノームに問いかけると、サムズアップが返ってきた。
そして追加のフェアリーノームがあらわれ、総勢二十人ほどになったのだった。
「ピッピィィィィィ」
ホイッスルの音と共に新たに呼び出されたフェアリーノームたちは森の奥へと入っていく。
そして十数分後、大きな獲物を担いで彼女たちは戻ってきた。
あっという間の出来事である。
「え、あんな大きなクマなんてどこにいたんですか? ていうか早いです!」
おそるべし、フェアリーノーム。
さくらも驚きの速さ。
「じゃあせっかくだし、このクマをさばいて焼き肉の準備をしよう。できるだけ血抜きしておいてね」
できればもう少し時間を置いておきたいが食料が少ないので仕方ない。
簡単な指示をフェアリーノームに与えた後、少し大きめの竈の作成に取り掛かることにした。
これでみんなに行きわたるくらいの食糧が用意できることだろう。